『無関係な死・時の崖 (新潮文庫)』
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追っているはずが、いつのまにか追われる身に。同一・背反の関係が、悲喜劇的に堂々めぐり。
周到な構成力、目をみはる完成度。著者が30代に到達した、抜群の短編集。
自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして逆に死体に追いつめられてゆく『無関係な死』、試合中のボクサーの意識の流れを、映画的手法で作品化した『時の崖』、ほかに『誘惑者』『使者』『透視図法』『なわ』『人魚伝』など。
常に前衛的主題と取り組み、未知の小説世界を構築せんとする著者が、長編「砂の女」「他人の顔」と並行して書き上げた野心作10編を収録する。
目次
夢の兵士
誘惑者
家
使者
透視図法
賭
なわ
無関係な死
人魚伝
時の崖
解説 清水徹
本書収録「無関係な死」より
客が来ていた。そろえた両足をドアのほうに向けて、うつぶせに横たわっていた。死んでいた。
もっとも、事態をすぐに飲込むというわけにはいかなかった。驚愕がおそってくるまでには、数秒の間があった。その数秒には、まるで電気をおびた白紙のような、息づく静けさがこめられていた。
つづいて、唇のまわりの毛細血管が、急激に収縮し、瞳孔が拡張して、視界が白っぽくなり、ふいに嗅覚がするどくなって、ぷんと生皮のにおいを嗅ぐ。
本書「解説」より
『人魚伝』の主人公が緑色過敏症となったまま(これを、生きつつしかも自然の生命から拒まれた宙づりの状態と言い直しては、あまりにもあからさまで貧相な絵解きにすぎないだろうが)、「物語の檻」にとらえられている。しかしこの差は著者が若年の夢を棄てたことをけっして意味しない。夢みる力の強さが、しだいに夢の苦さを教えてゆき、その苦さが無垢な夢の実現へのかぎりない再出発をうながすという、まるでメビウスの輪のようなふしぎな回路が安部公房の想像的世界において強調されているということなのである。
――清水徹(文芸評論家)
安部公房(1924-1993)
東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。